彼女はレンブラント光線(遥か昔にそんな名前の宗教画家がいたとか)即ち星芒、星芒採りの名人であった。
と、いう言い方は若干語弊があるだろう。
何故なら彼女はきちんと博士号をとった学者であり、星芒採集、特に「星芒のレコード」に関する研究は、
彼女は第一人者であり、彼女のライフワークでもあったからだ。
ならば、名人という言い方もあながち間違いではないのかもしれない。
西に稀なる銀糸の如き刺繍を持った星芒降りたと聞けば駆けてゆき、東に今は亡きの星の星芒落ちかかっていると聞けば飛んでいった。
そして天から伸びる厳かなヴェールを真鍮製の鋏で丁寧に切り取ると、遮光効果を施した硝子瓶に慎重な手つきで中に入れていた。
星芒はその星の指紋であり戸籍でり、採集後その星が滅んだ時はその星が滅ぶ直前の声を再生する事さえする。
採集した星芒から彼女たち専門家は、その星芒がどのような星から降りたものなのか具に調べることが出来た。
そしてもう滅んでしまった星のものならば、その星の最後の声を聞いた。


いま現在、その彼女はもう居らず、この世界に星々は殆んど無い。
恐らく今のところ存在している星は自分の住むこの星だけなのではないか。

しかし、その星々よりも長い寿命を与えられた我々はどうすればいいのか。
我々といいつつも、残されたのは自分のみだ。
答えを聞こうにも他の仲間もとうに逝き、星芒採集名人であり星芒学博士の彼女は行方どころか生死さえわからぬ状態だ。
もしかしたら彼女はどれか星芒を登っていったのかもしれない。
さながら金色の梯子をゆくが如く。

だが、仮にそうだとあってしても、その彼女が登っていった星も今はもう無いのだ。
今は滅びてしまったどの星芒から流れてくるのか、億劫で確認していないが、最近はこの部屋にZionのうたが溢れっぱなしだ。
今は自分しかいない室内に幾重にも層を為すZionのうたに、耳を傾ける。
もう滅びた星の星芒が囀るのはその星の最後。
この世界のヒットチャートを独走し続けたZionのうたは耳に心地好く響き、そして自分の現状を色濃くさせる。
自分はZionの祈りのうたで身体を満たしながら思う。

たったひとり、このだだっぴろい宇宙に残されるのは少し怖い、と



星芒のレコード




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